2020年5月10日日曜日

ランナーは10m離れた方が良いという件の誤解について

ランナーは10m離れた方が良いという論文について、一般的に誤解がいろいろとあるようなので、正確な情報をお伝えできればと思います。

長くなるのでまとめから言うと、一般的にかなり誤解があります。メディアが切り取ってセンセーショナルに取り上げているからでしょうか。一瞬ですれ違うランナーからの感染リスクは非常に低いです。ランナーと歩行者や、ランナー同士でいがみ合うのは、憎悪や恐怖を増幅させ、ストレスを溜めたり、警察や医療などのリソースを浪費してしまうことにつながるので止めましょう。気にしないのが良いと思います。

誤解1. メディアなどで取り上げられているので、しっかりした論文なんでしょ?
解説1. まだ査読と学会などでの議論を経ていないので、しっかりした論文ではありません。この論文は他の研究者による査読(評価や検証や誤りの有無を確認すること)をまだ通っていません。また、論文が査読を通ったとしても、他の研究論文や学会での議論などで、論文の正当性は低いと評価されることがあります。
また、前回指摘したように医学関係者が共著者にいなかったり、感染力を有する量の飛沫が付着するか否かの議論がないなど、結構問題点があります。

誤解2. ランナーを走らせて実験した結果なんでしょ?
解説2. 流体力学のシミュレーションなので実験結果ではありません。コンピューター上で現実に近い条件で流体力学のシミュレーションを行った結果です。現実に近い条件とは言え、完全に現実を表しているわけではないので、現実の結果とは違う可能性があります。前回指摘したようにサブスリーペースで走っているランナーとウォーキングの人の吐く息のスピードが同じとしていたりします。

誤解3. 全方位に10m離れなければならないんでしょ?
解説3. この論文では横方向は1.5mも離れたら飛沫の付着は無いとなっています。ランナーが走っている軌道から横に1.5mも離れたら安全です。このシミュレーションは無風状態でのものなので、風の影響を考慮するなら風下方向はもうちょっと離れた方が良いですが。とは言え、風が強いときは急速に拡散されてしまうので、気にする必要がなくなると思います。
論文の図です。出典はこちら横方向は1.5mも離れたら飛沫の付着は無いという結果です。

誤解4. ランナーの後方は10m離れなければならないんでしょ?
解説4. これはちょっとややこしい話なのですが、立ち止まっている人から見た場合、ランナーが吐いた息の飛沫は進行方向前方に進んで拡散します。メディアなどで取り上げられている動画は、周囲で同じスピードで走っているランナーから見た視点でのものです。ランナーは走りながら息を吸って吐いてを繰り返していますが、立ち止まっている人から見た場合、息を吐いた瞬間の位置から進行方向前方に飛沫は進みます。なんでかと言うと、ランナーの口は顔の前に付いており、進行方向前方に息を吐きます。また、論文ではランナーは秒速4mで進みながら、息を相対速度秒速2.5mで吐くとしており、絶対速度(立ち止まっている人から見た速度)は秒速6.5mとなるからです。息を吐いた後、飛沫は周囲の空気の抵抗を受けてすぐに減速されるので、飛沫はランナーが息を吐いた位置からちょっと前方に広がってほぼ止まります。この論文ではこの範囲を詳しく書いていませんが、図から目測で飛沫の広がりを計ると、ランナーの進行方向へ3~4mぐらいしか広がらないようです。
論文で何故ランナーは10m離れた方が良いとされているかと言うと、この飛沫が下に落ちる前に後続のランナーが走ってきて被ってしまうのを避けるためです。飛沫が下に落ちるのは時間にして3秒ぐらいでしょう。また、感染力が高いと考えられる大きな飛沫は1秒もたたずに重力の影響で地面に落ちるはずです。また、前回指摘したように、息を吐いたランナー自身に多くの飛沫が付き、後方のランナーへ流れていく飛沫は減ります。
ランナーからの飛沫を避けるには、前述したように横方向に1.5mぐらい離れれば問題ありません。また、もしもランナーの走っている軌道を横切る必要があるなら、ランナーが通り過ぎてから3秒ほど待ってから横切れば問題ありません。
また、この論文で言っていることは、集団走を長時間しているランナー達がいて、もしも先頭のランナーが感染者だった場合、後続のランナーに感染のリスクがあるということです。一瞬しかすれ違わない人への感染リスクは非常に低いです。例えば集団走を30分間している場合、秒に直すと1800秒間ですが、すれ違うのは1~2秒の話なので、すれ違う人の感染リスクは集団走をしているランナーの1000分の1程度です。また、屋外のスポーツでクラスターが発生した例は無いはずです。スポーツ後のロッカー・シャワールームで感染した例はあるようですが、屋外で行うスポーツ自体の感染リスクは低いと思われます。とは言え、感染可能性を少しでも下げたいのであれば、ひっきりなしにランナーが通るところは避けた方が良いでしょう。散歩・ランニングコースを変えるのをお勧めします。

誤解5. ランナーから飛沫が10m飛ぶんでしょ?
解説5. 先に書いたように、ランナーが吐きだす飛沫はランナーが息を吐いた位置から進行方向へ3~4mぐらい、横方向は1.5mしか広がりません。

この誤解は、この論文が言っていることが、10m後ろを走っているランナーがこの飛沫が下に落ちる前に走ってきてしまう、ということであるのをメディアなどが明確に伝えていないことから発生しているようです。曖昧な情報には注意しましょう。

最後にもう一度まとめますが、一般的にかなり誤解があります。メディアが切り取ってセンセーショナルに取り上げているからでしょうか。一瞬ですれ違うランナーからの感染リスクは非常に低いです。ランナーと歩行者や、ランナー同士でいがみ合うのは、憎悪や恐怖を増幅させ、ストレスを溜めたり、警察や医療などのリソースを浪費してしまうことにつながるので止めましょう。気にしないのが良いと思います。

それから自粛要請を他人に強制するのはおかしいです。あくまで説得しようとするのなら良いですが。このままだと政府が味をしめて年金が足りないので年金受け取り自粛を要請しますとか、会社も自主退職を優遇措置無しで要請しますとか言いだしかねません。自粛要請を受け入れるとしても、いろいろと情報を集めて自分で考えて判断しましょう。また、自粛警察と言われそうな行動は控えましょう。